九州芸文館 アートプロジェクト
アートプロジェクト企画総合プロデューサー: 伊東 順二
アートプロジェクトデザイン監修: 隈 研吾
制作: 福岡県
協力: 聖徳宗総本山法隆寺・公益財団法人平山郁夫シルクロード美術館・隈研吾建築都市設計事務所
開館: 2013年4月27日
作品:
1. 宮廻正明 + 東京藝術大学大学院美術研究科 文化財保存学保存修復日本が研究室
① 「法隆寺旧金堂壁画 第5・6・7号壁 アートウォールⅠ」
② 「高句麗古墳群 江西大墓 四神図「青龍」 アートウォールⅡ」
③ 「敦煌莫高窟第57窟南壁 説法図 アートウォールⅢ」
2. インゴ・ギュンター
「一、二、三 = 一」(いち、に、さん は ひとつ)
3. 中村信喬
「石馬」
「九州芸文館アートプロジェクト」について―アジア文化交流」
伊東順二
九州芸文館は最先端の展示機能を持つと共に、陶芸工房や図書館機能、カフェ機能を分棟式に持つ新世代型の展示施設である。その施設の先端性と多機能性をより広汎にアピールするために、また、従来の収蔵という考え方から脱却して、より施設に密着し相乗効果のある作品配備として、また恒常的な誘客性と文化交流施設としてのアイデンティティをより明確に主張するために、福岡県の依頼で先例のない建築とアートのコラボレーションである「アートウォール」と文化交流施設の創設効果をより一層高めるための環境展示計画「アートパーク」を企画し、プロデュースした。 そして、その作業の開始にあたって、地域性を踏まえた上で、全体計画の指針とするコンセプトを「アジア文化交流」とすることにしたのだった。
九州芸文館が建設される福岡県域は数千年の長きにわたって中国大陸、朝鮮半島と日本を結ぶ重要な外交、経済、政治そして文化交流地域であったことは歴史が証明するところである。実際、施設の周辺地域にもその記憶は深くとどめられている。その記憶を再生し、21世紀アジア復興の時代に、その文化資源の新たな発信拠点として、この施設が筑後地方と福岡県、さらに日本の未来に機能していくことはこの地域のみならず、日本の外交の未来にとっても大変重要であると思う。しかし、それはただ過去の記憶を再生するだけでは足りず、その交流によって伝えられた、もしくは育まれた成果を現代の視点で実感できるようなものにならなければならない。その意味において、ここで紹介する全体計画と5点の作品はその主旨を実現するものであると信じている。
私は九州芸文館建設計画当初より異なったデザインコンセプトを持つ集合文化施設であるべきだ、というアドバイスを行ってきた。そうすることによって筑後地方の素晴らしい自然の多様性に呼応し、また時代を超えて「動く」という文化の動的側面を伝えられると思ったからである。展示においてもその視点を実現しようとした結果、考えたアイデアが可動性を持つ壁画「アートウォール」計画である。中国、朝鮮と日本を代表する古代壁画、その三つの文化の出会いを再現し、今の時代に伝統的な技術と新しいテクノロジーで伝えようとするこの計画は宮廻正明氏との出会いを抜きには考えることはできない。甦った古代が現代人の心に向かって機能することに感動して頂けることと思う。
「アートパーク」計画は点在し集合する九州芸文館の文化的視点をより明確にするために表現方法の異なる作家を集合しそれを連結して九州の文化的多様性を表現するためのものである。その中で地元博多人形師の第一人者中村信喬氏が伝統的技法で表現する「地域」と世界を代表するメディアアーチスト、インゴ・ギュンター氏が3DCGとアルミ鋳造という新しい技術で表現する世界的視点から見た「アジア」、それぞれの表現が融合し、この施設のコンセプト発信力を高めることになると信じている。九州芸文館のアート計画を通して九州域の強い文化力を改めて感じていただきたいと思っている。